白内障手術は現在、非常に完成度の高い手術です。しかし、頻度は低くても、発症すると視力に重大な影響を及ぼす可能性がある合併症があります。それが「術後眼内炎」です。
結論:眼内炎は極めてまれですが、急速に悪化して重い視力障害を残すことがあるため、眼科医が「最も恐れる合併症の一つ」と表現することもある病気です。
眼内炎とは何ですか?
眼内炎は、眼球の内部に細菌などが入り込み、強い炎症を起こす状態です。白内障手術では、濁った水晶体を取り除いて眼内レンズを挿入します。通常は問題なく経過しますが、ごくまれに手術後に感染が眼内へ波及することがあります。
眼の中には、光を感じる網膜をはじめ視力に直結する重要な組織があります。そのため、眼内で感染が起こると短時間のうちに炎症が広がり、治療が遅れれば回復が難しくなることがあります。
どのくらいの頻度で起こるのでしょうか?
日本の前向き多施設研究では、白内障手術後8週間以内の術後眼内炎は0.025%と報告されています。これは、およそ4,000件に1件という頻度です。
ただし、頻度が低いことと、重要度が低いことは同じではありません。発症したときの影響が大きいため、眼科医は常に眼内炎を強く意識して手術と術後管理を行います。
なぜ眼科医は眼内炎を特に警戒するのか
理由は大きく3つあります。
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- ・発症すると、視力が急激に低下することがある
- ・感染の進行が速く、治療開始までの時間が重要になる
- ・適切に治療しても、重症例では視力障害が残ることがある
白内障手術そのものが順調に終わっていても、術後に眼内炎が起こる可能性を完全にゼロにすることはできません。そのため、手術室での感染対策だけでなく、術後の診察や患者さん自身による症状の確認も非常に重要です。
手術後に注意したい症状
眼内炎では、次のような症状がみられることがあります。
- ・手術後いったん見えていたのに、急に見えにくくなる
- ・時間とともに強くなる眼の痛み
- ・強い充血
- ・まぶしさが急に強くなる
- ・まぶたの腫れ、目やに、眼の中の強いかすみ
重要なのは、「痛みがなければ眼内炎ではない」とは言い切れないことです。
眼内炎でも痛みを伴わない患者さんがいます。見え方の急な悪化など、普段と違う変化があれば、痛みの有無だけで判断しないことが大切です。
手術後に「急に見えにくくなった」「充血や痛みが強くなった」などの変化がある場合は、次の予約日まで待たず、手術を受けた医療機関へ早めに連絡・受診することが重要です。
眼内炎を防ぐために行われていること
白内障手術では、眼内炎のリスクをできる限り下げるため、手術前から手術中、術後まで複数の感染対策が行われます。
- ・眼表面やまぶた周囲の消毒
- ・清潔な手術環境と滅菌された器具の使用
- ・まつ毛などが手術部位に触れないようにする工夫
- ・施設の方針に応じた抗菌薬の使用
欧州白内障屈折矯正手術学会(ESCRS)の大規模研究では、白内障手術終了時の前房内セフロキシム投与によって術後眼内炎のリスクが約5分の1に低下したことが示され、現在のESCRSの推奨にも反映されています。抗菌薬の種類や投与方法は国や施設によって異なりますが、眼内炎予防は白内障手術における重要なテーマです。
もし眼内炎が疑われたら
眼内炎が疑われる場合は、通常の術後炎症として様子を見るのではなく、感染症として迅速に評価します。眼内液を採取して原因菌を調べると同時に、抗菌薬を眼内へ投与する治療が行われます。重症例では、硝子体手術によって感染した硝子体を取り除くことがあります。
治療法は眼の状態や視力、炎症の程度によって異なりますが、共通して重要なのは「疑った時点で早く対応する」ことです。
怖がりすぎる必要はありません。しかし、知っておく価値があります
眼内炎は、白内障手術を受ける患者さんの大多数には起こりません。現在の白内障手術は非常に高い精度で行われ、感染予防も進歩しています。
一方で、眼内炎は発症すると視力に大きな影響を及ぼす可能性があるため、眼科医が最も警戒する合併症の一つです。患者さんにとって大切なのは、必要以上に怖がることではなく、手術後に注意すべき症状を知り、異常を感じたときにすぐ受診できることです。
白内障手術は、手術そのものだけでなく、術後の経過観察まで含めて一つの治療です。定期診察と適切な術後管理を続けることが、良好な視力を守るために重要です。
参考文献
1.Inoue T, Uno T, Usui N, et al. Incidence of endophthalmitis and the perioperative practices of cataract surgery in Japan: Japanese Prospective Multicenter Study for Postoperative Endophthalmitis after Cataract Surgery. Jpn J Ophthalmol. 2018;62(1):24-30. doi:10.1007/s10384-017-0545-6.
2.European Society of Cataract and Refractive Surgeons (ESCRS). The Endophthalmitis Study / ESCRS Recommendations for Cataract Surgery.
3.Endophthalmitis Vitrectomy Study Group. Results of the Endophthalmitis Vitrectomy Study. Arch Ophthalmol. 1995;113(12):1479-1496.
※本稿は一般向けの医学解説です。症状や治療方針は個々の状態によって異なります。

